2001年 38号 ブルースを巡っての闘い

  「Battle over the blues(ブルースをめぐっての闘い)」と大きな見出しでシカゴ・トリビューンのエンターテイメント欄に記事が載ったのは昨年のクリスマス前のことだった。『キングストン・マインズ』といえば、日本のブルースファンも多く訪れる、シカゴを代表するブルース・クラブだ。1986年からここで働き、マネージャーとしてクラブの運営にも関わっていたルーファス・マクラム氏が『キングストン』を離れ自分のクラブ『ルースター・ブルース』を開いたのが2000年 10月。これがきっかけになって、『キングストン』と『ルースター』間の”ブルースをめぐる闘い”が勃発した。
 
 まず先に仕掛けたのは『キングストン』のオーナー、ドック・ペレグリノ氏だ。”ルースターに出演するミュージシャンは今後ウチでは一切雇わない”とタンカを切る。『ルースター』の何がペレグリノ氏の逆鱗に触れたのか。まずそれには『ルースター』の作りから説明しよう。ステージが2つあって、一晩に2つのバンドが出演。それぞれ1時間交代で演奏し3セットずつ計6時間休みなしで音楽が聞ける、というシステムは『キングストン』と同じだ。スペア・リブやチキン・ウィング、ハンバーガー、ナチョスなどの軽食メニューもこれまた『キングストン』そっくり。さらに驚くのはここで働くバーテンダーやウエイトレスの 80%が元『キングストン』の従業員だということだ。
「僕ははっきりと、向こうに出演するミュージシャンはウチでは出さない、と言ったよ。他の店でやるのは勝手だがね。僕の主張は法律に違反しているわけでもないし、モラルに反してもいない。彼に全てをコピーさせるわけにはいかない。俺を裏切ったわけだから」とペレグリノ氏は手厳しい。
 
 しかし、このペレグリノ氏の方針はまずミュージシャン達の反感を買った。
「市内でギグをとること自体が大変なのに、ミュージシャンに他の店で働いちゃいけないなんて言うのは間違ってるよ」
 とはハーモニカのビリー・ブランチだ。「彼の”ウチのミュージシャン”っていう考え方はプランテーション時代のものだね」とこちらも容赦ない。実際に、ビリーはじめカール・ウェザズビー、ヴァンス・ケリーらは『ルースター』でレギュラー出演をしはじめてすぐに、長年プレーしてきた『キングストン』の仕事を直前になってキャンセルされ、以来一度も『キングストン』のステージに立っていない。
 
 この騒動についてもう一方のマクラム氏はどう思っているのか、『ルースター』のバーカウンターの片隅で聞いてみた。
「確かにクラブ・ビジネス運営のやり方は『キングストン』から学んだよ。『キングストン』の影響があるのも確かだと思うけど、この店の外観や内装のフィーリングは全然違うと思わないかい?さらに考えてほしいのは、ここと『キングストン』は5マイルも離れていて、しかもむこうには独自の顧客がついているじゃないか。ウチが店を出したことがむこうに悪影響を及ぼすとは考えられないよ」さらに「従業員やミュージシャンは多くの場合彼等のほうから雇ってくれ、と言ってきたことも付け加えておきたいね」とのことだ。
 
 小生は延べ5年間毎週末『キングストン』のステージに立ってきて、その間ペレグリーノ、マクラム両氏の元でプレーした経験がある。時には二人の確執も耳に入っていたし、ある日突然マクラム氏が店に来なくなったことも知っている。そういう内情に触れていただけに、はじめは単なる二人の感情の行き違いだろうと思っていた。ところが事が思った以上に複雑なのは、マクラム氏が黒人だということだ。先のビリーの発言にもあったように、黒人ミュージシャンや黒人オーナーの人権を認めないのか、という『キングストン』に対しての抗議Eメイルが出回るくらいに、クラブ・オーナーのバトルが、いつのまにか人種間の問題に発展しそうな勢いだ。結局行き着くところはここなのかな。アメリカ社会の縮図を見ているような気分だ。
 
 この争いは未だに決着がついていない。いつか法廷にまで持ち込まれるのだろうか。しばらくは目を離せない状況が続きそうだ。