1998年9月号 夢のシカゴ・ブルースフェスで弾きまくり

  金曜の昼にもかかわらず、シカゴ・ブルース・フェスティバルの会場であるグラント・パークはどこを見渡しても人、人、人。開演1時間半前に音楽ライターのマイク越谷氏と一緒にステージ裏にある楽屋に入った。シカゴに来て以来小生が抱いていた夢の一つ、シカゴ・ブルース・フェスティバルのステージがいよいよ目の前に迫っている。期待と感動で胸が張り裂けるような興奮を味わうはず?だったのに、サウンドチェックで小生はガクゼン。フェンダー・ツイン・リバーブ・アンプが事前の打ち合わせでは用意されることになっていたにもかかわらず、ツインがどこにも見当たらねえじゃねえか。代わりにエンジニアが持ってきたのはローランド・ジャズコーラス120だった。チューブ(真空管)アンプ至上主義の小生は、真空管の入っていないジャズ・コーラスは使わないのだ。ラー油の入ってない餃子は絶対に食わないのと同じで、これは宇都宮人の意地と言ってもいい(どこに関係があんのかね)。サウンドマンに「オウオウ、アンちゃんなんとかしてくれや。ジャズコーラスなんて軟派なアンプは使えるわけねえベや。話しが違うんでねえの?」と宇都宮訛の英語で執拗に抗議するも、「無いもんは仕方なかんべ」と開き直りやがる。ファ○ク、シ○トが百万回くらい頭のなかを駆け巡っていたけど、民族的感情の対立、国交断絶ひいては全面核戦争にまで発展するのもまずいと思い直し、ジャズ・コーラスさんに「いい音でてね、よろしく」と語りかけ、暫定的友好関係を結ぶことにした。
 
 小生は、赤いタンクトップの上にスパンコールをちりばめた真っ白なジージャンを羽織って、下は革のパンツといういでたちでステージに上がった。一緒にプレーしたチコ・バンクスは、昨年エヴィデンスから「キャンディ・リッキン・マン」でデビューしたギタリスト、シンガーだ。ブルースのスタンダードもファンキーなノリに変えて、しかもかなりハードなサウンドで弾きまくるという当代の若手黒人の代表的なミュージシャン。チコは小生のベスト・フレンドの一人で、「ブルース・フェスでは一緒にプレーしようぜ」と誘われて、今回の出演が実現したんだよね。チコは最初っからガンガンにファンキーなグルーブで飛ばしていく。小生のほうは、寒さで動くか心配だった指も予想以上に滑らかで、チコとのギター・バトルではギンギンに弾きまくらせていただきやした。
 それにしてもステージからの眺めがこんなにいいなんて思いもしなかったなあ。目の前を走るジャクソン通りには人の波が数百メーターに渡って続き、その両側にはピザやスペア・リブ、ホット・ドッグあるいは中華のテントが何十も軒を並べモウモウとうまそうな煙を吐き出している。通りに面した木陰に座ってビールを飲んでくつろぐカップルが遠くに見えて、さらにその向こうにはシカゴの個性的な造形を施したビル群が初夏の強い日差しを受けながらこっちを見下ろすようにそそり立っている。日比谷の野音とも違った、シカゴならではの風景だ。まさに音楽と風景と匂いと客席からの熱気を全身で堪能した一時間半のステージはあっという間に終り、ウオーという歓声を背中に浴びながら我々はステージを後にした。体中のアドレナリンを使い果たしてしまったのか、しばらくは思考回路が停止したようにボーッとしてしまったよ。出演した感動というよりは終った安堵感のほうが大きかったかもしれない。しばらく楽屋裏で休んで、スポンサーのギブソンからギター・ストラップと、Tシャツをお土産にもらって会場を後にした。
 
 去年から4日間に延びたブルース・フェスティバルは、初日からいきなりレイ・チャールズの登場で幕を開けた。土曜のルース・ブラウン、日曜のトニー・リン・ワシントン、タイロン・デイヴィスなどR&Bシンガーが充実した今年のフェスだったね。元エルビス・プレスリーのバック・ギタリストだったスコッティ・ムーアーがスティーブ・クロッパー、ジョー・ルイス・ウォーカーとジャムるシーンもあったし、キャリー・ベル、オーティス・ラッシュに加えチコやカール・ウェザズビーら新旧シカゴ・ブルースマン達も一同に主演。盛りだくさんのフェスティバルだったと思う。詳しくはマイク越谷さんが本誌でレポートされているので、そちらをぜひ読んでくだされ。
 
 シカゴもこれからストリート・フェスティバルのシーズンだ。小生もあちこちに呼ばれてプレーすることになるけど、今度は自分のアンプを持って行くのを忘れないようにしないとな。